背中で口説く女

 目は口程に物を言う。相手の目を見ると心の内がなんとなくわかる。

アイコンタクト、目で合図を送ることもある。

 又、後ろ姿も何かを語る。

  親の背を見て子は育つ。

  男の背中は履歴書。

  役者は背中で演じる。

 健さんの唐獅子は背中で泣いていた。

映画のラストシーンでも、哀愁漂う男の後ろ姿がよく使われる。

 背中で語るのはなにも男だけとは限らない。

 男の哀愁に対して、女は色気である。スーッと伸びた背中、結い上げた襟足、ぷっりと上を向いた尻、メリハリの効いた脚。

女優や、モデルなど、みな後ろ姿が美しくて色気がある。美人の絶対条件だ。

 

 ”首のない美人”の死体が見つかった。

この場合も、検視官は背中を見て美人と断定した。続いて同じような事件がおきた。

“首のない女”の遺体。

 同じ部屋に捜査本部の看板が掲げられた。

  ”美人の首なし死体“と “女の首なし遺体“の合同捜査本部。

“美人の首なし”と “女の首なし”なぜ区別されたのか。背中を見た検視官には、首がなくても、美人とそうでないのはすぐわかる。

 ではなぜ“死体“と“遺体”呼び方が違うのか?これは至極単純な理由からだ。

美人とは”したい”、そうでないほうは、首を切られて”いたい”検視官は素直にそう思った。ただそれだけの事。

 

 背中で語るのは芸能人や死体ばかりじゃない。

おれの彼女は背中で男を口説く。 面食いの彼女に口説かれたときもそうだった。

 流し目で俺の気を引き、さり気なく背中を見せると、Tシャツの背中にはプリントがしてある。

      “いい仕事しまっせ‼”